1868年5月6日,ケルトベニはウルリヒスに宛てて手紙を書きます。ウルリヒスが「ウルニング」だなんてちょっとカッコよすぎる名前で同性愛者を呼んでいたのに対し,ケルトベニはもうちょっとシンプルな言葉づかいをしてみせました。ギリシャ語で「同じ」を意味する「ホモ(Homo)」と,ラテン語で「性」を意味する「セクスス(Sexus)」を組み合わせ,「Homosexual(同性愛者)」という言葉をつくり出したのです。さすが,語学に長けた言葉のプロのやることです。同じ要領で,ケルトベニは「Heterosexual(異性愛者)」という言葉もつくりだしてみせました。
続いてケルトベニは,この「同性愛者」という言葉を使い,1869年に刑法143条反対を表明する文書を発表しました。匿名での発表でしたが,その中には,自殺した友達を想い「刑法143条は恐喝や自殺を誘発する」と書くことを忘れませんでした。これが,文献に残っている限りでは,人類史上はじめて「Homosexual(同性愛者)」という言葉が公式に使われた瞬間です。
牧村朝子 (2016). 同性愛は「病気」なの? 僕たちを振り分けた世界の「同性愛診断法」クロニクル 星海社 pp.45-46
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