ナチスは,同性愛を生まれつきのものだとは考えませんでした。仮に生まれつきの同性愛者がいると認めれば,ヒルシュフェルトが提唱していたような,「同性愛は生まれつきの同性愛者による自然な行為なんだ!犯罪者扱いするべきじゃない!」という理屈が通ってしまいます。これではナチスにとって都合が悪いわけです。アーリア人の男と女がみんなくっついて,新しいアーリア人をガンガン産んでくれればいい,そういう考えでいるのですから,どうしても「人間はみんな異性愛者だよ!同性愛や異人種間結婚は犯罪だよ!」っていうことにしておかなければなりませんでした。
そのためナチスとその支持者は,同性愛非犯罪化を訴えるヒルシュフェルトを罵り,殴り,足蹴にし,彼の研究所に放火してなにもかもを燃やし尽くしてしまったのです。
自分たちの理想に合わない人間を,次々と排除していくナチス。1939年には,日本の厚生省(当時)もナチスドイツを手本にし,「産めよ殖やせよ国のため」などとうたう「結婚十訓」を発表しました。勝つためには数で勝負しなければならないという,第2次世界大戦下の強迫観念にとらわれ,いつしか,「子どもをつくれない人は国のためにならない」とされるようになっていきました。
牧村朝子 (2016). 同性愛は「病気」なの? 僕たちを振り分けた世界の「同性愛診断法」クロニクル 星海社 pp.88-89
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