そこでフロムとフーカーがとった戦略は,実に挑発的なものでした。ただ「同性愛を心理学的に研究しました〜」だけでは,学界でスルーされるのは目に見えています。ですから,学界の権威が無視できないよう,こんなステップを踏むことにしたのです。
・フロムの人脈を生かし,男性同性愛者を(刑務所からでも病院からでもなく)30人集める。
・続いて,男性異性愛者も30人集める。
・合計60人の被験者に,ロールシャッハ・テストなど,当時主流であった心理検査を受けてもらう。
・その結果をまとめたうえで,被験者のプロフィールだけ隠して心理学界の権威に提出し,「あなたたちはこの心理検査結果だけで同性愛者を見分けることができますか?」と問う。
そんな挑戦状を叩きつけられ,心理学界のお偉いさんたちも黙っていませんでした。「私なら間違いなく同性愛者を見分けてみせる」と,学者たちは自信満々。中には自らのプライドを賭けて,60人分の検査結果を検討するのに半年もかけた学者もいました。ですが,みんなみんな不正解。「もう1回やらせてくれ!」と食い下がった学者だって,やっぱりまた不正解でした。同性愛を異常扱いしていた心理学者たちは,60人のうち誰が同性愛者なのかということを,ちっとも見分けることができなかったのです!
牧村朝子 (2016). 同性愛は「病気」なの? 僕たちを振り分けた世界の「同性愛診断法」クロニクル 星海社 pp.158-159
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