触覚に大きく影響されるのは,子どもだけではない。大人がルールを守るかどうか,利他的に振る舞うかどうか,リスクの大きな行動に踏み出すかどうかも,他人に触れられるかどうかに影響される。こんな実験がある。スーパーマーケットで販売員が客を呼び止め,新しいスナック菓子の試食を勧める。その際,一部の客の腕に軽く手で触れるようにした。すると,腕に触れられた客は,試食を受け取り,さらには商品を購入する割合が大きかった。別の実験では,被験者の肩に軽く触れると,経済的にリスクの大きな行動を取る確率が高まった。おそらく,触れられることにより,安心感が増すからだろう。また別の研究では,レストランのウェイトレスが客の肩や手に1秒触れると,そうしなかったウェイトレスより,多額のチップを受け取ることができた。しかし,肩や手に触れられた客がウェイトレスや店の雰囲気に関して高い評価をくだすことはなかった。この点から考えると,体に触れられることがみずからの行動に影響を及ぼしていることに,客自身は気づいていないようだ。
タルマ・ローベル 池村千秋(訳) (2015). 赤を身につけるとなぜもてるのか? 文藝春秋 pp.36-37
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