学問分野には,「硬い」イメージの分野と「やわらかい」イメージの分野がある。硬いのは自然科学,やわらかいのは社会科学だ。前者は「ハードサイエンス」,後者は「ソフトサイエンス」と呼ばれる。私自身は,この二分法的な発想が好きになれない。私の専門である心理学は,生命科学や物理学と同じように対照実験や定量データの測定をおこなうが,ソフトサイエンスに分類されることが多い。
一方,アメリカの二大政党のうち,共和党は,経済政策と外交政策,そして人工妊娠中絶や同性婚などの社会的な問題で強硬,つまりハードな立場を取ることが多い。それに対し,民主党のほうがやさしくて温情があり,ソフトというイメージをもたれている。
ある研究グループは,人が他人の政党支持(共和党か,民主党か)と学問専攻分野(物理学=ハードサイエンスか,歴史学=ソフトサイエンスか)をどう判断するかに,硬い/やわらかいという物理的な触感が影響を及ぼすかを実験した。1つの実験では,被験者に硬いボールとやわらかいボールのいずれかを握らせ,男女4人ずつの顔を見せて,それぞれの人物が共和党と民主党のどちらを支持していると思うかを尋ねた。結果は,男女の識別の場合と同様だった。やわらかいボールを握った人のほうが,多くの顔を民主党支持者と判断したのだ。もう1つの実験では,被験者に大学教員たちの顔を見せ,それぞれの人物の専攻が物理学か歴史学かを予想させた。この実験でも,硬いボールを握った人はやわらかいボールを握った人より,多くの顔を物理学者と判定する傾向があった。
タルマ・ローベル 池村千秋(訳) (2015). 赤を身につけるとなぜもてるのか? 文藝春秋 pp.42-43
PR