過去の経験をまっさらに消去できるわけではないにせよ,手や顔を洗う,シャワーを浴びるといった簡単な浄化行為をおこなえば,過去の経験の影響を最小限に抑えられるようだ。感情的・認知的な刺激に押しつぶされそうなときや,仕事と家庭,友達づきあい,余暇のバランスに苦慮しているときは,手を洗うだけでだいぶ気持ちが楽になるかもしれない。この方法は,ストレスが重くのしかかる仕事を終えて家に帰ったとき,頭を切り替える役にも立つだろう。人はシャワーを浴びると気分がよくなることが多いが,本章で取り上げた一連の研究によれば,シャワーを浴びることには単に体の汚れを落とす以上の意味があるらしい。浄化行為には,体をリフレッシュするだけでなく,過去に引きずられず,現在のことだけを考えられるようにする効果もある。人生という本のページをめくり,さまざまな局面や活動の間にはっきり線を引いて,現在とだけ向き合い,目の前の課題に集中する助けになるのだ。
タルマ・ローベル 池村千秋(訳) (2015). 赤を身につけるとなぜもてるのか? 文藝春秋 pp.209
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