それでもなお自業自得説でなければ納得できないという人がいるかもしれない。でも,もし恐竜の絶滅を自業自得とするならば,天体衝突を運の問題ではないと考える必要があり,結局は極端にハードな決定論か神秘的な宿命論に陥ってしまうことになるだろう。おもしろいのは,そうなればなおさら恐竜の自己責任を問うことができなくなるということだ。すべてがあらかじめ決定されていたり宿命であったりするならば,恐竜が何をどうしようと関係ないのだから。
このように自業自得説を検討していくと,それは結局のところ私達の主観的な感覚や信念の問題に帰着するように思う。そのとき問われているのは恐竜の自己責任ではない。問われているのは私たち自身の感じ方や考え方のほうなのだ。いわれてみれば,たしかに私たちの心性には,絶滅を自業自得と考える根強い傾向があるような気がしてくる。それはなぜだろうか。
吉川浩満 (2014). 理不尽な進化:遺伝子と運のあいだ 朝日出版社 pp.66
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