ヒトラーの台頭を間近に見たアメリカ人記者たちが当時興味を持っていたのは,なぜ多くのドイツ人がヒトラーの運動に惹き付けられたかという議論ではなく,全面支配に向けて突き進むヒトラーの動向であった。働き者のニッカーボッカーは,1933年の春から夏にかけて,おびただしい数の記事を書き続け,ヒトラーがどこまで政権を掌握したのかについて詳細に伝えていった。「アドルフ・ヒトラーはアーリア人の救世主となった」とニッカーボッカーは書き,ヒトラーが「人種の純粋性」を保つための運動に全力を傾けていると説明した。そのころ発表された反ユダヤ主義者のための小冊子には,6種類のユダヤ人が列挙されていた。「血なまぐさいユダヤ人,嘘つきのユダヤ人,搾取するユダヤ人,堕落したユダヤ人,芸術界のユダヤ人,金融界のユダヤ人」。これについてニッカーボッカーはこう書いている。「こうした出版物が許されているという事実は,国外に出た難民たちの判断が正しかったことのなによりの証拠である」。また別の記事で彼は,ヒトラーは「至上のボス」にのしあがり,その権威は「民主主義政権にかつて君臨したあらゆる権力者のそれを[……]凌駕している」と述べている。
アンドリュー・ナゴルスキ 北村京子(訳) (2014). ヒトラーランド:ナチの台頭を目撃した人々 作品社 pp.227
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