精神力動理論は,特性理論が個々の部分からなる「測定可能の個々の特性」に興味をもっているがゆえに,内的機能の力動的で相互作用的な側面やパーソナリティの異なる諸側面の相対的位置関係を見落としている,といって批判する。しかし,力動論的理論家によって仮説上の内的状態に割り当てられた名前(イド,エゴ,防衛,内的葛藤など)が,計量心理学的指向の理論家が好んで用いている特性の名前と異なっているとはいっても,2つのアプローチはいくつかの重要な特徴を共有している。まず,力動(状態)的理論も特性理論も,人の反応や行動は根底に流れている精神構造の直接的あるいは間接的徴候でしかないと考えている。次に,推論されたにすぎない根底的な諸傾性(特性,状態,過程,力動,動機,あるいは他のラベル)が,行動に普遍的で持続性のある効果を及ぼすと仮定する。そして,これらの仮説的な根底的傾性を推論するときに信頼できる指標として役に立つ行動徴候の探索に熱心である。
ウォルター・ミシェル 詫摩武俊(監訳) (1992). パーソナリティの理論:状況主義的アプローチ 誠信書房 pp.9
(Mischel, W. (1968). Personality and assessment. New York: John Wiley & Sons.)
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