行動の学習や獲得とその遂行とを区別することは有意義である。人は,学習したことをすべて遂行するわけではない。その人が学習し,知っていて,遂行できるということと,その行動をある特定の場面で実際に遂行することとの間には,大きな隔たりがある。個人はたくさんの向社会的行動だけでなく,反社会的な逸脱した行動をも,もちろん学習している。例えば,青年男子の大半は石を投げたり,ナイフを振り回したり,窓をこわしたりする方法を知っている。しかし,そうした技能を身につけた少年たちのなかにも,それを実際に遂行するかどうかには大きな個人差がある。同様に,われわれの文化では男女ともに口紅や白粉のつけかたやタバコのくわえかたを知っているが,それらの行動の遂行頻度には性差がある。このようにそれぞれの個人において,その人ができることと,ある状況で実際にすることとの間には,大きな隔たりが存在するのである。
ウォルター・ミシェル 詫摩武俊(監訳) (1992). パーソナリティの理論:状況主義的アプローチ 誠信書房 pp.169-170
(Mischel, W. (1968). Personality and assessment. New York: John Wiley & Sons.)
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