異常行動を疾病としてとらえるアプローチでは,人を精神的な「病気」の犠牲になっている「患者」としてとらえる。耳下腺炎や癌のような,肉体的疾患と同じようにである。精神疾患はそれ自体仮説的なものだが,「精神分裂病」「躁うつ病」「強迫神経症」などといった,病理学上の医療的構成概念を使って概念化されている。この種の精神医学的構成概念は,クレペリン主義による分類法の遺産のひとつである。この分類法では,精神的問題は,比較的特有な特徴をもつと考えられる統合的な病気の実体全体を表しているものと解釈されていた。
疾病としてとらえる視点では,行動は根底的病理の単なる「徴候」にすぎないとして,行動そのものに対する関心は根底的な精神疾患の推理の方へと直結されてしまう。伝統的に,「診断」とは器官に欠陥があるとか,病原菌に侵されているとか,その人の内部にあって行動上の問題の原因となっている,ある一定の精神的統合体とか,何か具体的なものがそこにあることを示唆している。診断的な検査は,治療ができるように病理を発見するためのものである。鑑別診断とは,徴候のもとになっている特定の病気を見つけ出すことである。
ウォルター・ミシェル 詫摩武俊(監訳) (1992). パーソナリティの理論:状況主義的アプローチ 誠信書房 pp.206
(Mischel, W. (1968). Personality and assessment. New York: John Wiley & Sons.)
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