伝統的なイニシエーションの考え方は,若者に仕事の技術や職務,特権を与えることと,親のイメージに対する感情的な関係を合理的に見直すことを結び付けている。秘義を伝授する者(父親または父親の代理)は,不適当で幼稚な充当(カセクシス)をすっかり取り払った息子にだけ,仕事の象徴を託すことになる。そういう息子なら,自己強化や個人の好み,または憤りという無意識な(意識的で合理的な場合もあるが)動機のせいで,正しく客観的に力を行使することが不可能になる,ということはない。理念的には,託された者は単なる人間性を取り払われ,人格のない宇宙的な力を表すことになる。つまり,「二度生まれた」。自分で父親になったのである。その結果,今度はイニシエーションを授ける人間や,案内人や太陽の扉といった役目を負う資格を持つようになる。そしてそれを通じて人は,幼稚な「良きもの」「悪しきもの」という幻想から脱して宇宙的な法則の権威を経験し,希望や恐れを取り去って,本質の現れを理解した心穏やかな状態になれるのである。
ジョーゼフ・キャンベル 倉田真木・斎藤静代・関根光宏(訳) (2015). 千の顔をもつ英雄[新訳版][上] pp.204-205
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