楽園での1年が地上での100年にあたるというのは,神話ではよく知られたモチーフだ。100年での完全な一巡は,全体性を表している。同じように,360度の円も全体性を意味する。ヒンドゥー教のプラーナ聖典では,神界の1年は人間界の360年に相当する。オリュンポスの神々の目から見ると,時代から時代へと移ろいゆく地上の歴史は,完全な円という調和の取れた形をしている。そのため,人間には変化と死にしか見えず,神々には不変の形,終わりなき世界にしか見えない。だが今,問題なのは,差し迫った地上の苦痛や喜びを前にして,この宇宙的な視点をどう維持するかである。知恵の実を食べると,気持ちはその時代の中心から,その瞬間の周縁的な危機へとそれてしまう。完全性のバランスが崩れ,気持ちがぐらつき,英雄は転落する。
ジョーゼフ・キャンベル 倉田真木・斎藤静代・関根光宏(訳) (2015). 千の顔をもつ英雄[新訳版][下] pp.55
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