こうした見方にならえば,驚くような物語——伝説の英雄の生涯や,自然に宿る神々の力,死者の霊魂,トーテムの祖先の話として語られる物語——を通して,人間の意識的な行動パターンに隠された無意識の欲求や恐れ,緊張に象徴的な表現が与えられる。言い換えれば,神話は,伝記や歴史,宇宙論として誤読されている心理学なのである。現代の心理学者は,神話本来の意味を解釈し直し,それによって,人間性の最深部に眠る説得力のある記録を今の世に救い出すことができる。そこに表れるのは,X線透視装置で見るように,謎多きホモ・サピエンス——西洋人や東洋人,未開人や文明人,現代人や古代人——の,隠された変遷である。私たちの目の前にすべての場面が展開する。私たちはそれを読み解き,一定のパターンを調べ,バリエーションを分析するだけでよい。そうすれば,人類の運命を決め,公私両面の人生を左右しているに違いない深層の力を理解できるようになる。
ジョーゼフ・キャンベル 倉田真木・斎藤静代・関根光宏(訳) (2015). 千の顔をもつ英雄[新訳版][下] pp.100
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