そのため,私たちが受け継いできた神話の形状の価値をきちんと把握するためには,神話が無意識(実際は,人間のあらゆる思考や行為)の表れであるだけでなく,制御され,意図された,ある種の精神的な原理——人間の肉体そのものの形や神経組織と同じように,人類の歴史が始まってこのかた,ずっと不変の原理——を表現していることを,知っておく必要がある。まとめると,万物の教えは,この世界の目に見える構造物すべて——あらゆる事象や存在——は,それを生み出す偏在する力の作用した結果であり,事象や存在が現れている間は,それを支え,満たしているが,最終的に,元の滅却状態に回帰するということである。その力は,科学でエネルギーと呼ばれ,メラネシア人にマナ,アメリカ先住民のスー族にワカンダ,ヒンドゥー教徒にシャクティ,キリスト教徒に神の力として,知られる。また,精神(プシケ)に現れるものは,精神分析学用語でリビドーと呼ばれる。さらに,宇宙に現れるものは,宇宙そのものの構造や流転である。
ジョーゼフ・キャンベル 倉田真木・斎藤静代・関根光宏(訳) (2015). 千の顔をもつ英雄[新訳版][下] pp.102
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