ほかの何十もの研究でも,小さな差異はあるが,ほぼ同じパターンが見られた。ルービンとシュルキンとは,数多くの実験結果を集計し,「回想隆起」は40歳の被験者ではまだ見られず,50歳からゆっくりはじまって60歳ではっきりとわかるようになることを確証した。
レミニセンス効果は頑強な現象であり,病的な状態にあっても完全にはなくならない。フロムホルトとラーセンによる実験では,30人の健常な老人と30人のアルツハイマー症の患者たち(全員が71歳から89歳)に,自分にとって最重要の出来事を15分で回想してもらった。アルツハイマー患者は健常者グループよりも列挙する思い出の数が少なかった(8対18)が,年齢時軸上におけるそれらの思い出の分布状況は,健常な被験者と変わらなかった。アルツハイマー患者も青年期の思い出が一番多いのである。
レミニセンス効果は,まったく違った種類の調査においても思いがけず現れた。社会学者カール・マンハイムは,世代観についての1928年の論文で,17歳から25歳くらいのあいだに得た経験は政治的世代の形成にとってきわめて重大であると述べている。その理論にもとづいて,社会学者のシューマンとスコットは世代間の違いの量的な研究を行った。18歳以上のアメリカ人1400人以上を対象に無作為の調査を行い,「国家的に,あるいは国際的に重要な出来事」を1つか2つ挙げてもらった。回答者はそれらの出来事に直接かかわっていなくてもよく,自分が生まれる前に起きた出来事を挙げてもよかった。答えはじつに多様で幅広かったが,シューマンとスコットは,挙げられる頻度の高い順に5つの事件を取り出した。年代順にいうと,大恐慌,第二次世界大戦,ケネディ大統領の暗殺,ベトナム戦争,70年代のハイジャックと人質事件である。これらの事件を挙げた人びとの年齢を図表に表してみると,はっきりしたパターンがあることがわかった。人びとが「国家的に,あるいは国際的に重要な出来事」だと考えている事柄は,彼らが20代のころに経験したことが突出して多かった。65歳(1985年当時)の人びとにとっては第二次世界大戦であり,45歳の人にとってはケネディ大統領の死だった。冗談めかしていえば----世界を揺るがす出来事は20歳のときに起きる。
ダウエ・ドラーイスマ 鈴木晶(訳) (2009). なぜ年をとると時間の経つのが速くなるのか 講談社 Pp.256-257
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