今日の新上流階級は,トインビーにいわせれば間違いなく支配的少数派だが,彼らの行動規範はいい人であれという漠然とした命令でしかない。これを「普遍的優しさの掟」(the code of ecumenical niceness)と呼ぼう。子供たちはおもちゃを取りあうのではなく,仲良く共有し,代わりばんこに使うよう教えられる。つまり”いい子”でなければならない。実際,新上流階級の子供たちはおおむね”いい子”に育つ。だが同時に,子供たちは他人のやり方に口を挟まないようにと教えられている。つまり,性別,人種,性的嗜好,文化的慣行,国籍を問わず,他人のやり方を尊重しなければならない。そこから,「普遍的優しさの掟」に決定的な欠陥が生じる。支配的少数派の行動規範は本来社会の基準になるべきものなのだが,「普遍的優しさの掟」は結局のところ,支配的少数派が選んだ人々——要するに自分たち——にしか及ばない。
チャールズ・マレー 橘 明美(訳) (2013). 階級「断絶」社会アメリカ:新上流と新下流の出現 草思社 pp.418-419
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