日本に中国からもたらされた仏教は宗教というよりも文明そのものであり,教典はもとより学問,祭式もハイカルチャーな文化的生活様式であった。そのために誰もが信ずる・行ずる宗教というよりも特殊な能力を用いる職能者として業務独占が認められてきたのである。当時のような身分制社会では,農民は田畑を,漁師は漁場を,貴族や武士は家格と役職を世襲したように,僧侶も僧職と寺院を世襲することが十分考えられる。
奈良・平安時代の僧侶の仕事は国家鎮護の祈願や学事に携わることであり,今でいうところの文部科学省と文化庁の役人のようなものである。荘園を有し治外法権さえ享受していた中世の寺社において,僧侶とはさしずめ自治都市の職員であろう。浄土真宗では中興の祖蓮如が生涯に5人の妻を娶り,20数人の子をなして教勢を拡大したということであるから,封建領主と変わるところがない。近世の檀家制度が僧侶に与えた役職は,宗門改帳により事実上の戸籍管理を行い(近世の寺檀制度においてキリシタン取り締まりのために,家ごと仏教寺院の檀家に入ることを命ぜられたこと),その報酬として檀徒の葬儀から布施を得る業務独占の権限を得たことであった。このようにして寺院の経済的基盤が安定したため,末寺でも僧職の世襲が進んだといわれる。
櫻井義秀 (2009). 霊と金:スピリチュアル・ビジネスの構造 新潮社 Pp.108-109.
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