イルカセラピーは障がいに対する効果的な治療法だと賛同者たちは主張するけれど,ロリとスコットはそういう主張にはたしかな科学的根拠がないと切り返す。ふたりはそれがまったくのエセ科学であると断じている。ふたりは,イルカセラピーは科学的にはデタラメにすぎないとバッサリ切って捨てるだけでは飽きたらず,イルカをダシに使うこの商売を廃業に追いやりたいと考えた。そこでふたりはイルカセラピーを「危ない流行」と呼んだ。一時的流行だと言うならわかるけれど,なぜ「危ない」とまで言えるのか?もしもそうする余裕があるなら,子どもに人生のなかで数週間ほどイルカと戯れるささやかな喜びを与えてなにが悪いの?なんの害もないように思われるが?
ロリは同意しない。彼女はこの「セラピー」が人間と動物の両方を危険にさらしていることを指摘する。たとえ相手が癒しを求める子どもであっても,イルカは攻撃的になることがある。最近の研究によれば,かいせいほにゅうるいを仕事で扱う400人強のうちの半数が外傷を負い,イルカセラピー・プログラムの参加者もイルカに叩かれたり,噛まれたり,激しく体当たりされたり(この場合,ろっ骨が折れたり,肺が破裂したりする)していることが明らかになっている。イルカから皮膚病をうつされるケースもある。
ハロルド・ハーツォグ (2011). ぼくらはそれでも肉を食う:人と動物の奇妙な関係 柏書房 pp.28-29
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