イングランドでは,1900年に生まれた赤ん坊は平均寿命が46歳だった。1980年に生まれたその曾孫は74歳の寿命が期待できた。そして,2003年に生まれた玄孫は80年近くこの世にいることが見込める。
これはほかのすべての西洋諸国でも同じことが言える。米国では,1930年に平均寿命が59歳だったが,70年後にはほぼ78歳になった。カナダでは最近,平均寿命が約80歳をわずかに上回った。
人類の歴史の大部分を通して,出産は,女性にとってもっとも危険なことの一つだった。開発途上国の多くでは,今なお危険を伴う冒険であり,10万人の子供の出生に対して440人の女性が亡くなっている。しかし,先進国ではその比率は一気に20まで下がっており,もはや,誕生に死がつきまとっているとは思わない。
母親に言えることが子供にも言える。幼児サイズの棺を墓穴に降ろすという痛ましい経験がありふれていたのはそれほど昔ではないが,今日赤ん坊が誕生ケーキの上の5本のろうそくを吹き消すまで生きる確率は目覚しく向上している。1900年に英国では乳幼児の14パーセントが死亡した。1997年までにその数は0.58パーセントまで下がった。1970年からだけでも,米国の5歳未満の子供の死亡率は3分の1以下になり,ドイツでは4分の1になった。
そして,ただ長生きしているだけではない。より健康に暮らしている。ヨーロッパと米国にまたがる研究において,心臓病や肺病,関節炎などの慢性病にかかる人が少なくなっており,かかる人もかつてに比べて10年から25年遅く発症し,かかった場合も以前に比べて症状が軽くなっていると結論づけられた。おれまでより身体障害者が少なくなっている。また,体も大きくなっている。平均的な米国人は1世紀前の先祖より7センチ以上高く,20キログラム重くなっており,真正の装備だけを用いて南北戦争を再現しようとすると,軍隊用テントに体を収めるのが難しくなっている。私たちは賢くもなっており,知能指数は何十年ものあいだ着実に向上している。
ダン・ガードナー 田淵健太(訳) (2009). リスクにあなたは騙される:「恐怖」を操る論理 早川書房 pp.16-17
(Gardner, D. (2008). Risk: The Science and Politics of Fear. Toronto: McClelland & Stewart Inc.)
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