バーナード大学の心理学者であり動物行動学者でもあるアレクサンドラ・ホロウィッツによると,その答えはノーだ。ホロウィッツは,イヌが後ろめたそうなそぶりを見せるのは,イヌが「実際に」粗相をしたときなのか,それともイヌが粗相をしたと飼い主が「考えた」ときなのかを判別する,独創的な実験を考え出した。
この実験ではまず,イヌのすぐ目の前にイヌ用ビスケットを置き,飼い主がそれを食べないようイヌに命じる。次に,飼い主はイヌとビスケットを残して部屋を離れる。飼い主がいないあいだに,,ホロウィッツはイヌにそのビスケットを食べさせてしまったり,取り上げたりしておく。飼い主たちはなにも知らずに部屋に戻ってくる。するとその半数は(イヌの表情を見て)誤解し,イヌたちは自分の言うことを聞かなかったとホロウィッツに訴えた。実際には,イヌは何も間違ったことをしていないのに(これが不正なやり方なのはわかっているけれど)。
こうして,イヌが悲しそうなそぶりを見せるのは,飼い主が自分のイヌが言うことを聞かなかったと「考えた」ときだけであって,イヌが実際にビスケットを食べてしまったときではないことが明らかになった。この実験はもちろん,イヌが道徳感を持ち合わせていないことを証明するものではない。そうではなく,わたしたちがいかにたやすくイヌの表情や行動を誤って解釈してしまうかを示すものだ。
ハロルド・ハーツォグ (2011). ぼくらはそれでも肉を食う:人と動物の奇妙な関係 柏書房 pp.91-92
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