人間のご先祖はたぶん,食生活を何度か大幅に変えたのだろう。はじめは繊維質の多い植物ベースの食事,それから動物の肉をもっと含む食事へ。やがて農業が発達して,ふたたび植物中心の食事に戻る。狩猟採集民の食事を見ると,人間がすさまじく多様な食物に適応できることがわかるけれど,そこには必ず肉が含まれていた。北極圏にスノーモービルや衛星テレビがやってくるまでは,アラスカ北部のヌナムイット族が摂取するカロリーの99%は,動物性だった——たとえば,生のムクトゥク(=クジラの皮膚と脂肪),魚,セイウチ,アシカのヒレを発酵させたものなど。一方,カラハリ砂漠のクン族は,85%植物性の食事でも楽々と暮らしている。何百もの狩猟採集民の食事を調べた,コロラド州立大学の栄養研究家ローレン・コーディンは,こうした集団は平均するとカロリーの3分の2を動物の肉から摂取していると結論した。動物性の食品が(クン族を下まわる)15%以下の狩猟採集社会はひとつもなかったのだ。
ハロルド・ハーツォグ (2011). ぼくらはそれでも肉を食う:人と動物の奇妙な関係 柏書房 pp.225
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