このようなことを心理学者は確証バイアスと呼んでいる。誰もがそれを行なっている。いったん信念が出来上がると,私たちは見聞きすることを偏った方法でふるいにかけ,自分の信念が正しいことが「証明済み」であると思えるようにする。心理学者は,人が集団極性化と呼ばれているものに影響を受けやすいことも発見している。これは,信念を共有する人々が集まってグループを形成すると,自分たちの信念が正しいことにいっそう自信を深め,物の見方がさらに極端になるというものである。確証バイアスと集団極性化,文化を合わせると,私たちは,どのリスクが恐ろしいものなのか,そして,どのリスクが再考に値しないのかに関して,なぜ人によって完全に異なった見解に行き着くのかを理解し始める。
しかし,リスク理解における心理学の役割がこれで終わったわけではない。終わりには程遠い。なぜ心配するのか,そして,なぜ心配しないのかを理解する本当の出発点は,個々人の脳にある。
人はどのようにしてリスクを認識するのか,どのリスクを恐れてどのリスクを無視するのかをどのようにして判断するのか,リスクに関してどう行動するのかをどのようにして決めるのかについて40年前の科学者はほとんど何も知らなかった。しかし,1960年代に,現在オレゴン大学の教授を務めるポール・スロヴィックのような先駆者たちが研究に着手した。彼らは驚くような発見を行ない,その後の何十年かのあいだに新しい科学が育った。この潜在的な影響はあらゆる分野に対して桁外れに大きかった。2002年にこの研究の主要人物の1人であるダニエル・カーネマンがノーベル経済学賞を受賞しているが,カーネマンは経済学の授業をただの1度も受けたことのない心理学者である。
ダン・ガードナー 田淵健太(訳) (2009). リスクにあなたは騙される:「恐怖」を操る論理 早川書房 pp.27-28.
(Gardner, D. (2008). Risk: The Science and Politics of Fear. Toronto: McClelland & Stewart Inc.)
(注:group polarizationは,「集団分極化」とも訳される)
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