罠にかかったネズミは,とんでもない苦しみを味わいながら死んでいく。ハツカネズミをボール紙に糊づけして一晩放置する実験動物の申請があったとしても,動物管理使用委員会は承認しないとわたしは思う。「実験対象」というレッテルを貼られたハツカネズミには明らかに許されないことが,「害獣」というレッテルを貼られたネズミには認められるわけだ。
このパラドックスがさらに深刻なものに思えたのは,その害獣ネズミがどこから来たのか知ったときだった。どうやら,その建物自体にもともと害獣ネズミの問題があったわけではないらしい。でも,何千もの小動物を飼っている施設だから,必ず”脱走組”が出る。要するに,悪いネズミのほとんどすべては,逃亡したよいネズミだったのだ。動物施設の管理者はこう語った。「動物が床に足をつけた瞬間に,それが害獣になるんです」。そして,ドーン!その道徳的な地位も一瞬で消えてしまうのだ。
ハロルド・ハーツォグ (2011). ぼくらはそれでも肉を食う:人と動物の奇妙な関係 柏書房 pp.291
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