善意の者がわれわれを導いてくれるという考えはパラノイアの特効薬になる。「私たちは現在極度の恐怖を抱えた文化に生きています」とバーナムは述べた。「9・11後に敷かれた警備体制のばかばかしさを考えるといいでしょう。どのオフィスに行くにも,磁気読取機を通らねばなりません。それで,誰かがヴァージニア州リーズバーグの裁判所を爆弾で吹っ飛ばすとでもいうのでしょうか?ありえません。図書館?正気ですか?」彼女は天使たち,すなわち「私たちの味方であり,わたしたちが想像する以上に私たちにとって良きことが起きるように願っている心霊的な存在」を信じるほうがましだと考えている。
しかし,善の陰謀と悪の陰謀は表裏一体の関係にある。神聖な運命を希求していると考えているなら,そこにある他の目には見えないもの(その神聖な運命が果たされるのを望まない闇の危険な力)を見ることは難しくはない。清教徒は彼らの町を荒野にある悪魔に魅入られた丘の上に見た。1957年にユリーカ・カレッジで建国の父たちに独立宣言に署名するよう求めた謎の男について話したあと,レーガンは共産主義者の脅威について話しはじめた。「私たちのなかにはこの敵,邪悪な力とハリウッド社会で間近に接した人がいる」と彼は卒業生に語った。「ここで間違わないでもらいたいのだが,これは邪悪な力なのだ。弾丸の音が聞こえないからといって騙されないでほしい。それでも,君たちは命をかけて戦っているのだから」。
ジェシー・ウォーカー 鍛原多惠子(訳) (2015). パラノイア合衆国:陰謀論で読み解く《アメリカ史》 河出書房新社 pp.198-199
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