ネットで検索すれば,ほかにも悪魔が写っているとされる9・11の写真をもっとたくさん見ることができる。一部は偽物だが,すべてがそうであるわけではない。またなかには目をぐっと細めなければ顔とわからないものもあれば,フィリップスの写真のようにすぐにそれとわかるものもある。
この顔が何を意味するかについては諸説ある。あるウェブサイトはこう書く。「憎悪と暴力の行為は悪魔にとってこの上ないスリルなのだ。悪魔たちはニューヨークでなにが起きるかを知っていて,飛行機が突っ込むその瞬間に現れるべく集結した。人がスリルを求めて列車に飛び乗るのと同じだ」。キリスト教徒の陰謀論者テックス・マーズは,この映像を外敵と位置づける。「悪魔に率いられたアラブのテロリストたちが独自の証拠を残し,自分たちの蛮行を世界に知らしめたいと考えるように,悪魔もまたこの写真で自分の仕業だとわかるように高笑いしながら自慢する。「私がやったのだ。私は自分の仕事を誇りに思うぞ!」」しかし,別の著述家はこの事件に上層の敵を見る。「世界貿易センタービルの惨事の写真を見ると,悪魔は現在このビルに住んでいると言っているように思えないだろうか?これらの写真は世界貿易センタービルに隠れていた悪魔が目覚めたように見えはしないか?なぜなら第一,第二,第三世界の債務をつくり出すのは,連邦準備制度,外交問題評議会,そして世界貿易センターなのだ」。
またこの悪魔の顔に善意の陰謀または少なくとも善意の者の影を見る人もいる。あるウェブサイトはこの映像を「大いに必要とされているアラーの神の命令——イスラム教でテロに訴えることは許されない,と最終的に告げる最高権威が与える最後通牒」と呼ぶ。
最後に,私好みの解釈がある。この顔は,データにパターンを投影するアポフェニアという現象だというのである。それは,より詳しく言うなら,パターンに意味を付与するパレイドリアだ。このパレイドリアによって,私たちは月に人の影を見るし,「天国への階段」を逆回転すると悪魔の声を聞いたと思い,ロールシャッハ試験を受けるとはからずも自分の無意識が現れたと考える。ネットには見ていて楽しいパレイドリアの例を示す写真が無数にあり,これらの写真では山やパスタ,時計,雲に思いもかけないようなかたちが出現する。
ジェシー・ウォーカー 鍛原多惠子(訳) (2015). パラノイア合衆国:陰謀論で読み解く《アメリカ史》 河出書房新社 pp.418-419
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