社会不正も研究不正もその根底では同じである。真実に対する「誠実さ(integrity)」の欠如,野心,競争心,金銭欲,こだわり,傲慢,責任感のない行動,「ずさん」な行為などが。不正の底流にある。それらは,程度の差はあるにしても,誰もが抱えているわれわれの心の内面の問題でもあるのだ。
ただ1つ違うとすれば,それは,科学者と企業人が所属する組織であろう。大学は,管理者,研究者,教育者,学生の緩やかな集合体であり,それをまとめる規範は,学問と発表の自由を尊重する立場から,彼ら/彼女らの良心に任されている。それに対して,企業などの組織は,明確で強固な上下関係のもとに運営されている組織である。それゆえ,研究不正では,研究組織の脆弱性が問題を広げたが,社会不正では,逆に,強固な経営組織が不正の発見を遅らせた。いずれの場合でも,不正は,われわれ自身に内包している問題であると同時に,所属する組織の問題でもある。それゆえに,不正は今後も続くであろう。
黒木登志夫 (2016). 研究不正 中央公論新社 pp.iv
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