ノーベル賞のパロディ版であるイグ・ノーベル賞は,科学に対する風刺と皮肉,ユーモアにあふれ,毎年話題になる。1993年,第三回イグ・ノーベル文学賞を受賞したのは,ページ数の100倍の人数の著者がいる医学論文であった。著者数976名は,当時としては,からかいたくなるほど,異常な著者数であった。しかし,それから20年以上経った今,1000名を超すような論文が,毎年200報近く発表されている。
最も著者数の多い論文は,2015年5月,物理学のフィジカル・レビュー・レター(Physical Review Letters)に発表されたヒッグス粒子の質量測定の論文である。なんと334研究室の5154名の著者が名を連ねている(ギネスブックに登録されたという話は聞かないが)。33ページの論文中,24ページが著者名と所属のリストである。生命科学の分野で著者が一番多い研究は,2004年に日本から発表された高コレステロール症患者の治験研究である。北海道から九州まで,研究に参加した医師2459名が論文の最後の4ページにわたって紹介されている。
著者数が多くなるのは,大規模な共同実験のためである。たくさんの患者を対象にした臨床研究,大がかりな設備を使う物理学の国際共同実験などでは,研究に携わった人が多くなり,1000人,2000人,さらに5000人になるのであろう。このような研究では,著者の1人が1回引用しただけで,論文の引用回数は何千にもなる。論文引用という基準で評価するのは難しくなる。
黒木登志夫 (2016). 研究不正 中央公論新社 pp.156-157
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