統計的概念は数よりさらに影響力が弱そうだ。カーネマンはかつて,イスラエルの飛行指導員が個人的体験に基づき,批判は成績を上げ,賞賛は成績を下げると結論を下していることを見出した。どのようにしてこのおかしな結論にたどり着いたのだろう?訓練生が特に良い着地をしたとき,彼は賞賛した。すると,次の着地はたいてい前ほど良くなかった。しかし,訓練生が特に悪い着地をしたときに批判すると,次の着地は良くなった。そういう訳で,批判は役に立つが賞賛は役に立たないと結論を下したのだ。理解力に優れ,教育も受けているこの男性が考慮していなかったことは「平均への回帰」であるとカーネマンは述べている。つまり,通常でない結果が生じると,その次は統計上の平均により近い結果になりやすいということである。したがって,特に良い着地の次は前ほど良くない着地になりやすく,特に悪い着地は次には改善されることになりやすい。批判と賞賛はこの変化と無関係である。これはまさに数の問題である。しかし,私たちは平均への回帰に関する直感を持ち合わせていないので,この種の間違いに気づくには大変な精神的努力を要する。
ダン・ガードナー 田淵健太(訳) (2009). リスクにあなたは騙される:「恐怖」を操る論理 早川書房 p.147
(Gardner, D. (2008). Risk: The Science and Politics of Fear. Toronto: McClelland & Stewart Inc.)
PR