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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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分母盲目

 驚くような結果ではないが,ハーバード大学公衆衛生学部によって2002年に実施された世論調査によって判明したところでは,米国人はこのウイルスの危険性を極端に過大評価していた。「西ナイルウイルスによって病気になった人のうち,どのくらいの人が死亡すると思いますか?」この回答として次の5つが用意されていた。ほぼゼロ,10人に1人程度,4人に1人程度,半数以上,わからない。14パーセントが「ほぼゼロ」と答えた。同じく14パーセントが半数以上,18パーセントが4人に1人,45パーセントが10人に1人と答えた。
 以上に述べたような状況を「分母盲目」と呼ぼう。メディアは日常的に「X人が死亡した」と世間に伝えるが,めったに「Y人のうちの」とは言わない。「X」が分子であり,「Y」が分母である。リスクの基本的な感覚をつかむには,分子を分母で割らなくてはならない。したがって,分母が見えないということは真のリスクが見えないことを意味する。ロンドンの『タイムズ』紙のある社説が好例となる。そこでは,見ず知らずの人間によって殺される英国人の数が「8年間で3分の1増えた」ことを見出していた。これは,被害者の総数が99人から130人に増えたということであると社説の第4パラグラフで触れられている。ほとんどの人はこの数字を少なくともちょっと恐ろしいと思うだろう。この社説の筆者はそう思ったはずだ。しかし,社説で述べられていないのは,およそ6000万人の英国人がいるため,見ず知らずの人間に殺される確率が6000万分の99から6000万分の130に上がったことである。計算すれば,リスクは,ほとんど目に見えないほど小さな0.0001パーセントから,ほとんど目に見えないほど小さな0.00015パーセントに確率が上がったと明らかとなる。


ダン・ガードナー 田淵健太(訳) (2009). リスクにあなたは騙される:「恐怖」を操る論理 早川書房 p.246
(Gardner, D. (2008). Risk: The Science and Politics of Fear. Toronto: McClelland & Stewart Inc.)
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