好奇心の衰えは必ずしも悪いことではない。社会人として常識的に振る舞うには,むしろ必要なことでもある。好奇心に流され,次々とやって来る刺激にいちいち反応するわけにはいかないからだ。コンピューター開発の分野では,設計者はシステムの効率を可能性の「探索」と「活用」の両面から考える——未知の可能性をどこまでも探索すればシステムの信頼性は高まるが,効率の観点からは,発生する可能性が高い状況に的を絞り,すでにある資源をできるだけ活用したほうがよい。赤ちゃんは子ども時代を経てやがて大人になるまでに,過去の探索によって獲得した知識を活用するようになる。ところが歳を重ねると,活用するばかりになる——蓄積した知識や若いころに身につけた思考習慣に依存し,知識を増やすことも,習慣を見直すことも少なくなる。要するに怠け者になってしまうのだ。
イアン・レズリー 須川綾子(訳) (2016). 子どもは40000回質問する:あなたの人生を創る「好奇心」の驚くべき力 光文社 pp.76
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