情報を得る手段が広がったからといって,好奇心まで広がるわけではない。現実はその反対だ。シカゴ大学の社会学者ジェイムズ・エヴァンスは,1945年から2005年に発表された3400万本の学術論文のデータベースを構築した。そして学術誌が紙媒体からオンラインに移行したことに伴って調査手法に変化がみられるかを調べるため,論文に含まれる引用を分析した。デジタル化された文章のほうが印刷されたものよりはるかに調査しやすいことを踏まえ,彼はこう予測した。研究者たちはインターネットを利用することで調査範囲を広げ,引用の種類も飛躍的に増えるはずである。ところが学術誌がオンライン化されてから,引用される論文の種類はむしろ減っていた。利用できる情報の幅は広がったにもかかわらず,「科学と学問は範囲を狭めた」のである。
エヴァンスはこの結果について,グーグルのような検索エンジンには著名な論文をさらに広める効果があり,短期間に重要な論文とそうでないものが色分けされ,その評価の差が拡大するのだと説明する。さらに,印刷された学術誌や文献のページをめくっていれば「周辺領域の関連記事」になんとなく目が留まるものだが,研究者たちはハイパーリンクという手軽で効率的な機能によってそうした寄り道をしなくなっている。図書館よりもインターネットで調査したほうが無駄なくスムーズに,整然と作業を進めることができる。しかし,まさにそうした利便性のせいで,調査の範囲が狭められている。
イアン・レズリー 須川綾子(訳) (2016). 子どもは40000回質問する:あなたの人生を創る「好奇心」の驚くべき力 光文社 pp.141-142
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