こうした受験のための引っ越しといった状況は,つまるところ「住む場所」が資本になっているということだ。バブル期までの日本では,土地保有税の税額が低く,土地保有のコストが安かったために,投資としての都心部の地価上昇が進んでいた。かつては土地を所有することが,なによりの「富裕層」であることを維持するための手段だったのだ。
ロバート・キヨサキの『金持ち父さん,貧乏父さん』(1997年)は,まさに土地を所有する者とそうでない者との間に,根本的に格差が生じる資本主義の原理を書いたベストセラーである。「土地」は,それを貸して賃料をもらうという不労所得につながるが,賃金労働者は永遠に働き続けないといけない。つまり,土地が「資本」であり,土地を持つ資本家には永遠に勝つことができないという話である。
しかし,現代の富裕層=資本家は,受験の条件の変化を受けて,引っ越しをする人々である。つまり,「土地」以上に「住む場所」が資本になっているということができる。
現代では教育が,富裕層がその優位性を維持するためにもっとも有効な「資本」になっているのだ。
速水健朗 (2016). 東京どこに住む?住所格差と人生格差 朝日新聞出版 pp.181-182
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