読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。
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なお,この「神聖病について」の中,および『ヒッポクラテス集典』のいま一つの代表的論文である「古い医術について」の中には,のちの気質論の背景となる<体液>の考え方も示されている。彼らにとって,体液は,プネウマと並んで,その過多や欠乏が身体の状態を左右する重要な要素であったらしい。だが,これを四元素や四季と結びつけ,熱,冷,乾,湿の各比率(程度)の異なる血液,粘液,黄胆汁,黒胆汁の四種に限った有名な<四体液説>の考えは,上述の「神聖病」や「古い医術」の中ではなく,「人間の本性について」という別の短い論文の中で提示されている。元来,ある人々には活力の源となる食物やアルコール飲料が,他の人々にとってはかえって有害であるという経験的事実から出発し,その違いの原因を,身体を構成する物質の配分に求めて到達した結論が,コス派(ヒッポクラテス学派)の体液説である。したがって,そこには身体的個性すなわち<体質>の概念の芽ばえはあるが,四体液説を媒介に,これを4つの<気質>に結びつけて心理学的な気質理論(性格理論)を展開するのは,600年後のガレノスであるとされている。
高橋澪子 (2016). 心の科学史:西洋心理学の背景と実験心理学の誕生 講談社 pp.91