武士の暫定的な定義は,3点からなる。
まず第1に,それは戦闘を本来の業とする者である。刀を差し,鎧かぶとを常備しているという武士の見た目の特徴がこれにあたる。本来の業とするというのは,たとえば追いつめられた農民が武器を手にするのとは違うということである。武士は,普段の日常生活そのものが,根本的に戦いを原理にしている人々だということである。
第2に,武士は,妻子家族を含めた独特の団体を形成して生活するということである。武士が武士として立っていくということは,背負うもの,守るべきもの,あるいは支え合うものとしての人間の共同が不可欠のものとしてあるということだ。一族郎党,主従関係,譜代,御家など,武士特有の人間共同のあり方は,ここを母体としている。
そして第3に,武士は,私有の領地の維持・拡大を生活の基盤とし,かつ目的とする存在だということである。そしていうまでもなく,所領を維持・拡大する力は,第1点の武力を行使する戦闘にあるということになる。
以上3つをまとめれば,武士とは,武力によって所領を維持・拡大し,そのことで妻子一族を養う存在ということになろう。妻子とともに食べて寝て着るという普通の人間生活を,己の武力によって支え営む者,それが武士の基本イメージである。
菅野覚明 (2004). 武士道の逆襲 講談社 Pp.33-34
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