読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。
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帝国は,というより政府一般は,初めこそ民衆のためになることをするが,長く続くほど理不尽になる傾向がある。当初,中核となる公益事業を行ない,交易と専門化の障害を取り除くことによって,社会が繁栄する力を高める。チンギス・ハンの大モンゴル帝国でさえも,シルクロードの山賊を撲滅して,ヨーロッパの応接間に置かれる東洋の品々の値段を下げることによって,アジアの陸路貿易を活性化した。しかしその後,中世の地理学者イブン・ハルドゥーンの先例にならってピーター・トゥルチンが論じているように,政府は次第にもっと野心的なエリートを雇うようになる。彼らは民衆の生活に対する干渉を強めることによって,社会が上げる利益からの自分の取り分を増やし,一方で強要する規則を増やし,最終的には金の卵を産むガチョウを殺してしまう。ここには今日に通じる教訓がある。経済学者はすぐに「市場の失敗」を口にする。それはそれで正しいが,もっと大きな脅威を生むのは「政府の失敗」だ。政府が経営するのは独占事業なので,ほとんどが非効率と停滞に陥る。政府機関は顧客サービスよりも予算を膨らませることを考え,圧力団体は仲間のために納税者からたくさん金を搾り取ろうとして政府機関と癒着する。しかしそれでもなお,たいていの知識層は政府にもっといろいろ経営するよう求め,そうすれば,次はどうにかしてもっと理想的な無私無欲の政府になるだろうと決めてかかる。
マット・リドレー 大田直子・鍛原多惠子・柴田裕之(訳) (2013). 繁栄:明日を切り拓くための人類10万年史 早川書房 pp.283