読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
オックスフォード大学のローレンス・ハーストはこれらの議論から,性が2つあるのは,融合によるセックスの結果であると予測している。つまり,コナミドリムシや多くの動植物のように,2つの細胞を融合させることによってセックスが成立する場合,性は2つになる,というのである。セックスが接合であり,2つの細胞が管で結ばれて,管を通じて核の遺伝子が移動するだけであり,細胞の融合が起こらない場合は,葛藤も起こりえず,したがって,殺人者と犠牲者という性の必要もない。確かに,繊毛虫類やキノコのように接合によるセックスを営む種は,非常に多くの性をもっている。これに対し,融合によるセックスを営む種では,ほとんど例外なく,性は2つである。特におもしろい例は,「ヒポトリック」という繊毛虫類で,いずれの方法でもセックスが可能なのである。これらが融合によるセックスを行う場合は,あたかも性が2つであるかのようにふるまう。そして接合によるセックスを行う場合は数多くの性をもつのである。
1991年,この整然とした物語に最後の仕上げをしていたそのときに,ハーストはこれと矛盾するように思われる事例に遭遇した。粘菌の一種に,13の性をもち,融合セックスをするものがあるのだ。しかし彼は徹底的にこれを調べ上げ,この13の性は階級をなしていることを発見した。13番めの性は,どの相手と結合しても,必ずオルガネラを提供する。12番めの性は,11番め以下の性と結合するときだけ,オルガネラを提供する。そして11番めの性は10番め以下の性と結合したときだけ……という具合に順々に下がっていくのである。このシステムは2つの性をもつのと同様に機能しているが,もっとずっと複雑な仕組みである。
マット・リドレー 長谷川眞理子(訳) (2014). 赤の女王:性とヒトの進化 早川書房 pp.171-172