読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。
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「ふつうの」ローマ貴族は数百人の奴隷を有していた。そこで,女奴隷は家のなかに仕事らしい仕事を割り当てられてはいなかったのに,若いときに売られると,高値がついた。男奴隷は独身を義務づけられていた。ではローマ貴族はなぜこんなに大勢の女奴隷を買ったのだろうか?奴隷を産むためだと,ほとんどの歴史家は述べている。しかしそれだけならば,妊娠中の奴隷にこそ高値がついたはずだが,実際にはそうではない。奴隷が処女でないことがわかると,買い手は売り手を訴えた。それに,子どもを産むことが女奴隷の役目だとしたら,男奴隷に禁欲を強いたのはなぜか?女奴隷は愛妾と同じであるとしたローマの著述家たちは,真実を語っていたにちがいない。ホメロス以来,ギリシア・ローマ文学は,無制限な性的対象としての奴隷の供給があったことを当たり前としている。現代の作家たちだけが,故意にそれを無視するようになったのだ。
それだけではない。ローマ貴族は多くの奴隷を怪しいほど若いうちに解放し,しかも怪しいほど多額の持参金をもたせた。これは経済的に分別のあるはからいであろうはずはない。解放奴隷は裕福で,数多くいた。ナルキサスはその当時最も裕福であった。ほとんどの解放奴隷は,主人の館で生まれていたが,鉱山や農場で生まれた奴隷が開放されることはほとんどなかった。ローマ貴族は,女奴隷の産んだ庶出の息子たちを解放したと考えてまちがいないだろう。
マット・リドレー 長谷川眞理子(訳) (2014). 赤の女王:性とヒトの進化 早川書房 pp.326-327