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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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個人と社会の増幅器

 バスケットボールのスキルの上達に及ぼす遺伝子と環境の影響力は,2種類の増幅器の作動の仕方に依存している。まず,個々人の生育史におけるスキルの向上は,個人的増幅器の作動によって生じる。つまり,平均より少しだけ優れた遺伝子が,それと適合する優れた環境因子を取り込むことによって,次第にスキルが向上する。一方,時代に伴う集団としてのスキルの向上は,社会的増幅器が作動することによって生じる。つまり,同じ集団内の成員が互いに切磋琢磨することによって,集団全体の平均的なスキルの水準を,より高い水準へと向上させる。


 私は,この増幅器のアナロジーは本質を明確に捉えていると思っている。別々の環境で育った一卵性双生児が,何らかの点で平均よりも少し優れた認知的能力の遺伝子を持っていたとしよう(もちろん劣っている場合もあり得る)。そして,もし平均よりも優れていれば,その一卵性双生児の少し優れた遺伝子は,その遺伝子と適合する優れた認知的環境を取り入れるように働き始める。すなわち,個人的増幅器が作動し始めることによって,それに気づいた教師との出会い,優れた仲間との相互作用,優秀な能力別クラス,より優秀な高校や大学への進学などの優れた環境要因が,彼らの認知能力を向上させるのである。だが時代とともに,様相は違ってくる。学校教育の期間が8年から12年へ,さらに12年以上(大学)へと長くなったことは,社会全体としての人知的能力の水準を向上させるだろう。すなわち,社会的増幅器が作用し始めたのである。


 要するに2つの増幅器は,どちらも働いている。別々の環境で育った一卵性双生児のIQの一致度が高いことは,決して環境の影響を否定しているわけではない。他方,環境の影響によって時代とともに集団としてのIQが向上したことは,決して遺伝子の影響を否定しているわけではない。なぜなら遺伝子と環境は,どちらもIQの個人差を説明するためにも,時代とともにIQの集団差が出てくることを説明するためにも,重要な役割を果たすからである。つまり,親族研究の研究者たちがこぞって否定する環境の影響は,常に存在しているのである。



(Flynn, J. R. (2013). Intelligence and Human Progress: The Story of What was Hidden in our Genes. New York: Elsevier.)


ジェームズ・ロバート・フリン 無藤 隆・白川佳子・森 敏昭(訳) (2016). 知能と人類の進歩:遺伝子に秘められた人類の可能性 新曜社 pp.11-12


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