読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。
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この演技を私はすばらしいと思ったが,それに同意する観客はごく一部だったし,トニーの演技が終わったあとには,そのごく一部以外の観客の気分をまた引き立たせるのにはしばらくかかるのが常だった。これを見れば,コメディの趣味がいかに幅広いかがよくわかる。たとえば出演者どうしでショーについて話をすると,うち20パーセントぐらいは比較的ぱっとしないと全員が思っているが,その20パーセントはどことどこかという話になるとたいてい意見が合わない。当時はこれに納得できずにいたが,何年もたってやっと,人のユーモア感覚はきわめて主観的なものだということがわかってきた。笑いには伝染性があるから,人はいっしょに笑いやすいが,同じ作品でもひとりひとりべつべつに観たときには,一般に考えられているよりはるかに感想はばらばらに分かれるものだ。私はときどき舞台から観察するのだが,観客がフィルムクリップを観ているのを観察しているだけでも,反応の幅がきわめて大きいのがわかる。またなにが受けるか受けないかも,こちらがあらかじめ思い込んでいたのとはまったく一致しないものだ。もうひとつ,当時の私が学んだ教訓に,ベーカー街クラシック劇場のマルクス兄弟祭を観たときに得たものがある。数々の玉の中にいかに多くの石が混じっているか気づいて,どんなにすぐれた喜劇役者でも,しょっちゅう滑っているという結論に達したのだ。
ジョン・クリーズ 安原和見(訳) (2016). モンティ・パイソンができるまで―ジョン・クリーズ自伝― 早川書房 pp.261