読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
例えば体重の遺伝率が80%だからといって,体重60kgの人の80%分の48kgまでが遺伝でできていて,残り12kgが環境でつくられたという意味ではありません。これは日本人の平均体重が60kgだからといって,日本人がみんな60kgだという意味ではないことと似ています。その集団にはいろんな体重の人がいて,その体重のばらつきの原因は,一人ひとり異なる遺伝要因のばらつきと,それぞれに異なる環境要因のばらつきが合わさったものです。そのとき体重のばらつき全体のどの程度の割合がそれぞれの要因によるばらつきで説明できるかをあらわしたのが,この数値なのです。
それじゃあ,一人ひとりの遺伝と環境の状態については,何も考えていないのかと思われるでしょう。決してそうではありません。
例えばあなたの体重が75kgだとしましょう。そしてあなたと同じ年齢と身長の平均体重は65kgだとします。平均より10kg重いわけです。ほかにもあなたと同じ条件で10kg重い人たちがたくさんいるとしましょう。その人たちがみんなあなたと同じ遺伝的素質と環境で育ったとは限りません。あなたは本来,ふつうに食べていれば遺伝的には70kgになる素質なのに,食べすぎがたたって5kgオーバーして75kgなのかもしれない。またある人は遺伝的素質は本来80kgになる人だけれど,ダイエットして75kgなのかもしれません。またもともと75kgの素質の人がふつうの食生活を送っているのでありのままに75kgかもしれません。
このように同じ75kgの人の遺伝的資質と環境にはそれぞればらつきがあり,その総和としてそれぞれの人の体重があるわけです。そして実際は遺伝的素質も環境も,それぞれさまざまにばらついているので,表現型としての体重も人によってばらばらに違う。このときの遺伝のばらつきと環境のばらつきが,相対的にどの程度なのかを示したのが,ここで表した遺伝と環境の説明率なのです。
安藤寿康 (2016). 日本人の9割が知らない遺伝の真実 SBクリエイティブ pp.76-77