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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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シグナリング

 子どもがある先生に出会い,ぜひともこの人に習いたいと思った,この学校の校風や教育方針にぞっこんなど,個人的な事情で進学先を決めるのはよいでしょう。けれど,偏差値が高いとか世間的な評判がいいとか,そうした理由で学校を選んでも大した違いはありません。


 そんなばかな,と思うでしょう。じゃあ,なんで一生懸命勉強して偏差値の高い大学に入ろうとするのか,と。しかし教育経済学の双生児研究はこのことをものの見事に説明してくれています。一卵性双生児でもちがう大学へ行くきょうだいがいます。中にはレベルの違う大学に行くことになってしまったケースもあります。一卵性双生児は遺伝要因も共有環境も同一ですから,その二人の差は,いわば同一人物が環境の違いだけでどのくらい異なる結果をもたらすのかという,絶対にすることのできない統制実験が,自然に成り立っているのです。


 それによると差がありませんでした。もちろん通常は偏差値の高い大学の卒業生のほうが生涯賃金は高くなります。しかし偏差値の高い大学と低い大学に別れ別れに通うことになった一卵性双生児で収入を比較すると,その間に差はなかった。おかしいじゃないかと思われるでしょう。からくりはこうです。収入の差は,通った大学のレベルによるのではなく,もともとの能力によるものなのです。このような双生児は,ここでいう非共有環境(そこには偶然も含まれます)によって,たまたま行く大学のレベルがちがってしまった。しかし遺伝的素質や共有環境は同じ。それが7~9割の能力を規定します。大学ごとの一般的な能力水準は,偏差値の高い大学のほうが高いので,大学間で比較すると,偏差値による収入の格差が生まれます。しかしそもそも学生の能力水準がもともと異なるからであり,大学が異なるレベルの教育をしたからではないのです。


 このことから,学歴や大学のレベルは,実質的にどんな教育を受けたかの指標ではなく,どの程度の能力をもっているかの指標(シグナル)にすぎないというシグナリング理論が成り立つわけです。



安藤寿康 (2016). 日本人の9割が知らない遺伝の真実 SBクリエイティブ pp.157-158


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