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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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テニュア制度の必要性

 ひとつは高学歴のわりに大学教授の給料が安いことが理由だ。どの国でも高等教育機関が上手く機能するには大学に最も優秀な「ブライテスト・オブ・ザ・ブライト」(Brightest of the Bright)が残らなければならない。テニュアで終身雇用を約束するのは優秀な人材が高級に釣られて企業などに流れるのを防ぎ,大学に惹き付けておくための誘引なのである。


 しかしテニュア制度が作られた一番の目的は,アカデミック・フリーダム,すなわち学問の自由を守るためである。テニュアを持っている教授はすぐさま結果を出さなくても解雇される心配がないので,何年もかかる研究にじっくり取り組むことができる。物議をかもしかねない研究を気がねなくすることもできる。例えば地球温暖化は人為的なものであるという研究結果は,第45代大統領となったドナルド・トランプのような保守派や一部の企業にとっては排気ガス規制などになりかねないので嫌がられる。私の専門の犯罪学では銃と犯罪の関係はよく研究されるトピックであるが,銃の所持が犯罪を増やすという研究結果も,銃を奨励している保守派には面白くない。


 逆にリベラル派は社会行動が遺伝的な性質に影響されると仮定する研究を嫌う傾向にある。例えば父が犯罪者だとその子も犯罪を犯しやすいのは育った環境ではなく凶暴な遺伝子を受け継いだためとするような研究である。世の中で常識と思われていることを覆す研究結果も世間から大ブーイングを受けることが多い。


 テニュア制度がなければ,このような研究をした時に,政府や世論からの圧力で解雇となる可能性もある。しかしテニュアは,教授をそのような心配から解放し,研究に没頭することを可能にする。結果的に社会全体の繁栄に不可欠とされる知識や科学の発展を促すことになる。テニュアは研究だけでなく大学での教育も活性化できる。テニュアがあれば学生からの評価を気にせずに難問に取り組んだり,ユニークな授業方法を試したりできる。センシティブな社会問題だからと遠慮することなく,授業で議論することもできる。



アキ・ロバーツ 竹内 洋 (2017). アメリカ大学の裏側:「世界最高水準」は危機にあるのか? 朝日新聞出版 pp.58-59


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