読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。
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保有効果の実験が示すように,人は自分が持っているものに固執する傾向があり,少なくともその一部は損失回避によって説明がつく。マグカップを渡されたとたん,私はそれを自分のものだと考えるようになるので,マグカップを手放すことは損失になる。それに,保有効果には即効性がある。私たちが行なった実験では,被験者がマグカップを“保有”していたのは,取引が始まるまでの数分間のことだった。ダニエルはこれを「インスタント保有効果」と好んで表現していた。そして,損失回避性が私たちの発見を説明する要因の1つであることはまちがいないが,それと関連する現象がある。惰性だ。物理学では,静止している物体は,外部から力を加えられない限り,静止状態を続ける。人もこれと同じように行動する。別のものに切り替える十分な理由がない限り,というよりおそらくは切り替える十分な理由があるにもかかわらず,人はすでに持っているものに固執するのである。経済学者のウィリアム・サミュエルソンとリチャード・ゼックハウザーは,こうしたふるまえに「現状維持バイアス(status quo bias)」という名前をつけている。
リチャード・セイラー 遠藤真美(訳) (2016). 行動経済学の逆襲 早川書房 pp.223