読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。
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しかし,神経科学の主張に対しては,さらに根本的な反論がある。そこに何らかのカテゴリー錯誤が含まれているというのが,批判の要点だ。カテゴリー錯誤という概念を導入した20世紀のイギリスの哲学者,ギルバート・ライルは,オックスフォード大学にやってきたアメリカ人旅行者を例にあげてそれを説明している。この旅行者は,シェルドニアン大講堂,ボドリアン図書館,学寮と中庭を見たあとで,「で,大学はどこですか?」と無邪気に聞いたというのだ。あたかも大学が物理的に別個に存在しているかのように。
同じような考え方から,概念,選択や動機,欲望や偏見といったものを脳に帰すのは,ある種のカテゴリー錯誤だとされる。ライルはヴィトゲンシュタインの影響を受けている。神経科学者を批判する者の多くがヴィトゲンシュタイン信奉者だ。神経科学をヴィトゲンシュタイン流に批判すれば,心理的特性は脳に帰すことはできない,となる。彼らに言わせれば,心と脳は同一ではない。
デイヴィッド・エモンズ 鬼澤忍(訳) (2015). 太った男を殺しますか?「トロリー問題」が教えてくれること 太田出版 pp.220