人間がしゃべるのは,象やペンギン,ビーバー,ラクダ,ガラガラ蛇,ハチドリ,電気ウナギ,葉の真似をする昆虫,ジャイアントセコイア,ハエジゴク,センサーを駆使するコウモリ,頭上にカンテラをはやした深海魚などより珍しい現象といえるだろうか。これらの生き物のあるものは,その種だけに固有の特徴をもち,あるものは持たないが,それは,隣接種のどれが偶然に絶滅したかによって決まることにすぎない。ダーウィンは,あらゆる生命体が遺伝的につながっていることを強調したが,同時に,進化とは「変異を伴う」遺伝でもある。自然淘汰はからだと脳という素材から,多種多様な無数の生命体を作り出してきた。ダーウィンにとってはそれこそが「生命をこう見ることの壮大さ」だった。「この惑星が不動の物理法則に従って回転している間に,ごく単純なものから出発して,きわめて美しく素晴らしい無数の形が進化してきたし,いまも進化し続けている」のである。
スティーブン・ピンカー (1995). 言語を生み出す本能(下) 日本放送出版協会 p.177-178.
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