1931年までに「精神異常者」や「精神薄弱者」の“根絶”を主な目的として,米国ではおよそ30州が“断種不妊化”法制を持つほどになっていた。ところが“根絶”すべき「精神異常」なり「精神薄弱」がいったい何を指すかについては定義が曖昧で,米国に住み始めたばかりで英語がわからず,その結果,むろん英語で実施される知能検査の成績が低く出てしまう移民たちなども,「精神薄弱」と判定されて断種を強いられるというありさまだった。しかも,いわゆる「性倒錯者」「麻薬常習者」「大酒飲み」「てんかん患者」あるいはそれ以外の“病気”や“退化的変質(デジェネレイト)”と診断された人々にまで断種不妊化法制が適用されるという,法の乱用が頻繁に起きた。こうした法律を制定した州でも,施行にいたらなかった場合が多い。だが1935年1月までに全米で断種不妊化手術を受けた人々の数は2万人にも及んでいた。しかもその大部分はカリフォルニア州で実施されたのである。カリフォルニア州の“断種不妊化”法制は1979年にようやく撤廃されたが,驚くなかれ全米にはこの悪弊を相変わらず続けている州があちこちにあるのだ。医師で弁護士でもあるフィリップ・レイリー氏によれば,1985年の時点で「全米の少なくとも19の州が知恵遅れの人々への断種不妊化を許可する法律をいまだに運用している。それらの州とは,アーカンソー,コロラド,コネチカット,デラウェア,ジョージア,アイダホ,ケンタッキー,メイン,ミネソタ,ミシシッピ,モンタナ,ノースカロライナ,オクラホマ,オレゴン,サウスカロライナ,ユタ,ヴァーモント,ヴァージニアおよびウェストヴァージニアの各州である」。
ルース・ハッバード,イライジャ・ウォールド 佐藤雅彦(訳) (2000). 遺伝子万能神話をぶっとばせ 東京書籍 Pp.77-78
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