読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。
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わかりやすく説明しよう。大学教員の道を歩む場合,大学院修士課程2年,博士課程3年を経るのが一般的である。しかし,東京大学法学部では「天才」「秀才」ぶりを示した学生は,修士,博士課程で学ぶというプロセスを免除されている。大学から「今さら教えることは何もないほど,頭がよい」というお墨付きをもらうわけだ。大学院に5年も通わせるのはもったいない,早く学者の世界に入れてあげようという,神童に対する一種の英才教育である。
だが,そのウラにはもう1つ理由があった。神童の青田買いである。
東京大学法学部の優秀な学生は,国家公務員総合職試験に軽々と受かってしまい,中でも財務省(大蔵省)採用者には試験成績5位以内が集まる。また,司法試験にも上位の成績で合格する。
東京大学法学部教授にとっては,教え子の中で最も優秀な学生がほしい。しかし,飛び抜けた秀才は大蔵省に取られてしまう。あるいは,法曹(裁判官,検事,弁護士)に流れかねない。そこで,助手採用によって20代で助教授,30大半ばで教授というライフプランを提示する。30代の官僚,法曹はその世界で第一人者になれるわけではない。その点,東京大学教授は若くして一国一城の主となる。
助手の任期は3年間で,それまでに論文を仕上げる。これを「学士助手」の「助手論文」という。修士論文でも博士論文でもないので,修士号,博士号の学位はもらえない。だが,論文が評価されれば,博士でなくても助教授,講師として任用される。満年齢で26歳の助教授が誕生する。
小林哲夫 (2017). 神童は大人になってどうなったのか 太田出版 pp. 128-129