遺伝子検査を推し進めているのは,障害者の“発生予防”を善しとする差別的な人間観に他ならない。だが“発生予防”の発想がどれほど有効か,まずそこから考え直す必要がある。「心身障害」すなわち心身の生理的機能不全をこうむった人たちの多くが経験する「障害」というのは,よくよく考えれば心身の機能不全状態そのものよりも,むしろそうした“生理学的少数派”が“多数派”である一般「健常」者の世界で生きていくうえで,社会的障壁に妨げられて生活に現れる“差し障り”と“被害”に他ならないことがわかる。たとえ優れた能力をもっていても,「女性」であるとか「社会的少数派」に属しているというだけで,たいていの人たちが社会的多数派や支配的職能階層から差別的に排除されてきた。(特に女性差別は人種にかかわりなく行なわれてきたのである。)それとまったく同じ“仕組み”で,遺伝的であれ生後のものであれ,心身に生理的機能不全をこうむり「心身障害」のレッテルを貼られた人たちは,多くの学校や職場で門前払いをされてきたのが現実なのだ。
ルース・ハッバード,イライジャ・ウォールド 佐藤雅彦(訳) (2000). 遺伝子万能神話をぶっとばせ 東京書籍 Pp.93-94
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