読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
とはいえ命題にとって重要なのは,その妥当性が定義次第であるにしても,ともかくそれまで私たちが知らなかったことを語っているかどうか,ということだ。あるいは,誰か(その誰かは定義のことなどよく考えないかもしれない)にとって,その人の知らなかったことを語っているかどうか,ということである。この点に関しては,誰でも自分で判断できる。ある命題が,あなたの知らなかったこと,あなたが経験していないことを教えてくれるなら,あなたは一歩前進したことになる。なぜならその命題を通じて,あなたは世界について何かをひとつ知ったことになるからだ――たとえそれが,実証的に裏付けられた科学的事実として普遍化することはできないとしても。たとえば,死亡原因に占める非感染性疾患の割合が50年前より増えたのは,感染性疾患による死亡が減ったからであって,必ずしも他の病気の死亡率が上がったからではない。このことをもしあなたが知らなかったとしたら,この命題に注意を払ったおかげですこし賢くなったわけである。こんなことも知らなかったのかと,少々いまいましく感じるかもしれないが。
トーマス・シェリング 村井章子(訳) (2016). ミクロ動機とマクロ行動 勁草書房 pp. 53-54